多世代交流型“介護福祉”拠点『R∞P』
今回のクライアントである株式会社familinkは、大阪市鶴見区を拠点に、医療・介護・福祉・美容事業を運営しています。「街をリハビリテーションする」を掲げて、地域に根ざしたサービスを展開してきました。
今回のプロジェクトは、長いコロナ禍を経て街に暮らすお年寄りの価値観の変化を目の当たりにしたことが背景にありました。行動が制限され、会いたい人にも会えないことは身体的にも精神的にも利用者さんの大きな負担になり、スタッフは歯痒い想いを経験しました。
「会いたい時に会いたい人に会える」そんな場所をつくりたい。
多世代交流介護福祉拠点R∞Pとは、これまの閉塞的な介護福祉施設の概念を超え、子どもからお年寄りまで誰もが気軽に集まれる複合施設です。
クライアントの主軸となる事業である、高齢者に向けた運動やリハビリ、そしてお風呂や食事を提供する「高齢者向けデイサービス」に加えて「ダンススタジオ」「シェアキッチン」「住民共有スペース」の4つの機能を併設し、まちに開かれた福祉をチャレンジしています。
法をクリアできるかが物件選びのポイント
そんなクライアントの要望に物件探しから技術面でサポート。
物件の選定に必要なのは立地の環境や、事業性も踏まえた建物の条件はもちろん、法規制や安全面は絶対条件になります。
そのため専門家による、法的な実現性をジャッジすることが大変重要になります。
今回の物件では、「無窓状態」という消防法上の救助活動に必要な窓が全くない違法状態で、建築基準法上の採光1/7以上にも厳しい状態でした。
窓を新たに設置しても良いか、壁を取り壊すことが可能かどうか。
建物オーナーと契約前から協議させていただきました。
さらに、今回の事業に利用するためには、建物の用途変更の建築確認が必要だったのですが、建築確認時の設計図書が存在せず、現状の法規への適合性を証明できる資料が無い状態でした。
そのために建物全体の法適合状況を再調査し図面を作成させていただきました。
今回の建築確認で図面が復元されたことにより、今後さらに事業形態が変容したり、借主が変わってもスムーズに計画を進められることが可能になり、物件価値も担保することができます。
「エコトーン」と「Hello New」
「会いたい時に会いたい人に会える」そんなクライアントからの要望でしたが、そもそも福祉関係の施設は「安全面の配慮」「プライバシーの配慮」「運営上の管理の問題」から閉鎖的になりがちです。
これらを背景に、社会の中で福祉が縁遠く「自分ごと」になりづらいことが課題であると考えました。
どれだけ福祉を「身近に感じられるか」がポイントになります。
そんな中で、当社がご提案したコンセプトは2つ
「エコトーン」と「Hello New」
エコトーンとは生物学の用語で、川辺やビオトープのような異なる環境が連続的に推移している「生物多様性」の高い場所のことです。
日常の中に老若男女、様々な属性の人たちを受け入れ、毎日が楽しくなるような出会いや出来事「Hello New」が生まれる仕組みをいかにつくるか。
安心安全面との両立させたそんな仕組みをつくっていきました。
昼はデイサービス 夜はダンススタジオ
拠点となる大阪市鶴見区は、大阪市の北東部、中心部にもアクセス良好でありながら緑も残り閑静な住宅地の広がるエリア。子育てサポートの体制にも力をいれており、子育て世代にも人気のエリアです。さらに物件は昔ながらの温かみも残る小さな商店街に面していて、駅近3分という好立地。
まず目をつけたのは、デイサービスの利用者さんの利用時間。
日中16時ででデイサービスは終了します。そこで、16時以降の時間を自社運営んのダンススタジオとして利用してもらうというアイデアでした。
通常プライバシーの問題で違う事業に貸し出すことは不可能なのですが、同運営者が事業をおこない、時間による区切りで機能を変えることで問題をクリア。場に新たな雇用と可能性を生み出します。
これにより、施設の非稼働時間を収益化させながら、空き時間を地域住民やこどもたちに活用してもらうことができます。
お母さんの小さなチャレンジの背中を押すシェアキッチン
新たな機能として作った2つ目はシェアキッチンです。
2021年に行った調査で同エリアでは新しいチャレンジをしたい主婦の方が多いというデータがありました。
施設内にシェアキッチンを作ることで、地域のかたの「やってみたい」の一歩踏み出すハードルを下げ、チャレンジの背中を押してあげられるような場所を目指します。
地域のお母さんが立つキッチン、そのお料理をデイサービスを利用する高齢者のかたも、地域の方やこどもたちも、食べに来られる。今日は誰に会えるかな。そんなHello New を日常につくる舞台です。
「おじいちゃんまたね!」「おぅ!ダンスがんばれよ」愛おしいドラマが産まれるホワイエ空間
3つ目は住民の共有できるシェアスペース。
ここは昼のディサービスと夜のダンススタジオ、全く異なる利用者が自然と交わる場所。
お迎えをまつおじいちゃんが、ダンスを習いに来たこどもたちと自然に出会い、顔見知りになっていく。
「おじいちゃんまたね!」「おぅ!ダンスがんばれよ」なんてハイタッチが産まれる空間。
ここではお母さんがコーヒーを飲みながらパソコンを拡げてダンスが終わるのをまつこともできます。
わくわくをデザインでサポート
インテリアが単調になりがちな福祉施設。
壁を斜めに配置したり、カフェのようなインテリアで利用者さんにとっては居心地よく、一般の方にとっては中に入り安くなる空間を創造しました。
介護3.0を取り入れたデザイン
介護3.0とは、「その人らしく輝いていられる本質的な介護」のこと。これまでの「お世話をされる/する」サービス提供型、受動型の介護ではなく、「その人らしさを引き出し、夢や可能性を引き出していく」ものとマインドセットをし、地域や生活者主体で考えていきます。今回の施設でも介護3.0の考え方を活用しています。
介護や福祉に通常求められる安全性や機能性だけでない「心地よさ」のデザイン。デイサービスの時間だけでなく、地域交流や多世代の出会いの場としても活用できる空間構成は、利用者の主体性や生活の質を高め、全ては介護3.0の理念に通じています。
介護の一歩未来へ。
これからこの場所でどんなセレンディピティな出会いが産まれていくか楽しみです。
OUTLINE
| PJ title | 『R∞P』 |
|---|---|
| Place | 大阪府大阪市鶴見区 |
| Building type | 福祉施設 | 鉄骨造 | 延床面積472.14㎡ |
| Complete | 2025.10 |
| Director | 平宅正人 |
| Designer | 平宅 正人・入谷 洋平・波多江 千賀 |
| Construction | 株式会社ショウエイ技建 |
| Photo | たつみ あすか |



