営業を止めるな!トランスフォーム型リノベーションふじみ調剤薬局
人と暮らしと医療をつなぐ
インクルーシブな未来の薬局
問題山積みなのに営業も止められない。八方塞がりからの相談
香川県坂出市、坂出市立病院の前。
多くの人が訪れる地域医療の拠点のすぐそばに、ふじみ調剤薬局はあります。
2014年の市立病院の移転に合わせ、昭和元年に建てられた店舗併用住宅を活用し、現在の場所で調剤薬局として営業を続けてきました。
一方で、周辺には複数の調剤薬局がひしめく激戦区。
時代とともに変化する医療や薬局のあり方、そして建物そのものの老朽化。
さらに、長い年月を経た既存建物は、現行の建築基準法に適合していない状態にあり、これからも安心して使い続けていくためには、耐震性や断熱性を含め、建物そのものを大きく見直す必要がありました。
こうした背景から、これまで幾度となく建て替えの計画が立ち上がりましたが実現には至りませんでした。
そのたびに大きな壁となったのが、「営業を止めること」でした。
通常、薬局開設手続きには1.5カ月、建て替えとなるとさらに長期間の休業を余儀なくされます。
地域医療を担う薬局にとって休業は致命的です。
「建て替えたい。でも、営業を止めることもできない。」
八方塞がりともいえる状況で、しわく堂へのご相談がありました。
15ヶ月の工事中「営業を止めない」トランスフォーム型リノベーション
休業ハードル解決の糸口は、保健所検査の要である「調剤室」の位置を動かさずに増改築を行う「トランスフォーム型リノベーション」でした。
調剤室を動かさないことで、「構造変更」という新規届出ではなく営業施設の一部の変更という手続きに着目し、
①既存の一部除却、
②病院側に開いた待合室の増築棟への営業スイッチ
③既存店舗部分の改修
という工程上必要なタイミングでの3度の変更手続きを行いました。
施主・設計・施工の緊密な連携により、15ヶ月の工期中、1日も営業を止めることなく完全リニューアルを実現しました。
あなたの暮らしと健康のパートナーへ
飲み残され、家庭に残る「残薬」は、全国で年間約475億円にのぼっていることをご存じですか?
薬を正しく飲めなければ、せっかく処方された薬も十分な効果を発揮できません。
厚生労働省も、薬局に対し、薬を提供する「門前」の役割から、地域住民の身近な健康の相談相手となる「かかりつけ」へと機能を広げていく方向性を示しています。健康サポート薬局には、地域住民の主体的な健康の維持・増進を支援し、幅広い健康相談を受け、必要に応じて医療機関や専門職へつなぐ役割が期待されています。
薬を正しく使い続けるために、日々の体調や薬の飲み方を相談できること。
病院へ行く前の小さな不安にも寄り添い、必要に応じて医療へつなぐこと。
これからの薬局には、地域の人にとって身近な、信頼できる健康のパートナーとしての役割が求められています。
INCLUSIVE
――誰もが、安心して訪れることができる場所へ
これからのふじみ調剤薬局らしい役割とは何か。
今回の改修にあわせて、薬局の根本的な姿から考え直しました。
そしてご提案したキーワードが、「インクルーシブ」でした。
年齢や身体の状態、家族構成、そして抱えている悩みも、人それぞれです。
車椅子の人も、子ども連れの人も。
誰かに聞かれたくない悩みを抱える人も。
誰かのための「特別な場所」ではなく、誰もが自然に訪れ、安心して相談できること。
そんなインクルーシブな薬局をキーワードに建築とデザインの面からサポート。
病院から、まっすぐつながる、優しい入口
従来の店舗は、市民病院から背中側の大通りに向けて店構えをとり、病院側からはアクセスが悪く営業状況すら分かりづらい状態でした。
改修では、市立病院側から直接アクセスできる新しい入口を整備。
病院から薬局へ。人の自然な動線に寄り添うことで、よりわかりやすく、訪れやすい薬局へと生まれ変わりました。
軒を深くし、車椅子やお子様連れにも優しいエントランス
before
安心して相談できる距離のデザイン
薬局に訪れる人には、それぞれの事情があります。
日常的な服薬の相談。身体の悩み。そして、人には聞かれたくないプライバシー性の高い相談。
そこで、投薬カウンターの形状を工夫し、ゆとりを持たせることで、誰もが利用する待合空間と、落ち着いて相談するための場所との間に、程よい距離感をつくりました。
空間そのものが、人と薬剤師の間に安心感をもたらし、「ちょっと相談してみよう」をさりげなく後押ししています。
デザインで、信頼と安心をやわらかく伝える
外観は、医療施設としての清潔感と信頼感を大切にしました。
進化を続ける医療の現場にふさわしい、すっきりとした白を基調に、タリックな素材を組み合わせ、
現代的で軽やかな印象をつくっています。
ロゴデザインは、親しみやすい漫画風に作成。
アクセント使用されたロゴカラーのオレンジは
市民病院とも親和性があり、まちのデザインに違和感がありません。
内部には、珪藻土クロスなどの素材を取り入れながら、安心感と落ち着きを感じられる空間を計画。
清潔感と、やさしさ。
信頼感と、親しみやすさ。
その両方を細やかなディテールまでデザインで表現しました。
安心して未来へつなぐ
今回の改修は、空間のデザインだけではありません。
難解な法規制を丹念に読み解き、増築に伴う確認申請を経て既存不適格を完全に解消しました。
昭和元年の建物を耐震・断熱・防火等において現行法へ適合させて「検査済証」を取得し、
建物の性能と資産価値を大幅に向上させました。
また、限られた予算のなかで、2階部分の改修や休憩室、書類保管などのバックヤードも整理。
利用する人だけでなく、そこで働く人にとっても、長く使いやすい環境を整えました。
暮らしと医療をつなぐ優しい未来の薬局へ
一日も営業を止めない。
その条件から始まった、今回のリノベーション。
完成したのは、単に新しくなった調剤薬局ではありません。
人の流れにひらかれ、誰もが訪れやすく、自分自身の健康について安心して相談できる。
これからの地域医療を支える、新しい薬局のかたちです。
「薬を渡す場所」から、「暮らしと健康に寄り添うパートナー」へ。
建物を更新することは、その場所の役割を、未来へと更新することでもあります。
OUTLINE
| PJ title | ふじみ調剤薬局 |
|---|---|
| Place | 香川県坂出市 |
| Building type | 調剤薬局 | 木造2階建 | 床面積180.78㎡ |
| Complete | 2026.03 |
| Director | 平宅正人 |
| Designer | 平宅正人、波多江 千賀 |
| Construction | 山口工務店 |
| Photo | 谷口尚江/KOMOREBI PHOTO |



