豊穣なる時間旅行海辺の珈琲研究所 豆豆豆
のびやかに広がる水平線。潮香に乗ってどこからか芳しい薫りが流れてきます。
日本のウユニ塩湖と呼ばれる父母ヶ浜沿いに建つ、海辺の珈琲研究所「豆豆豆」。
豆豆豆のオーナーは、2020年からこの三豊市でコーヒー豆の栽培研究を行ってきました。
三豊産コーヒーを作りたい。
その思いで栽培が難しい品種の育成方法の研究にも挑戦を続けてきました。
ついに栽培の目処がたち、さらなるコーヒー農園の拡大が目標となったオーナー。
その足掛かりとしての拠点が完成しました。
大きく二つの棟に分けられる拠点は、様々な役割を果たす空間で構成されています。
海側の棟の一階は、焙煎した豆やドリップしたコーヒーを取り扱うスタンド兼店舗。
二階は豆の商談を行う場所としてカッピングルームやミーティングルームが並びます。
山側の棟は、コーヒーの生豆を焙煎するファクトリーとして機能しています。
季節とともに移ろう、普遍的なカタチ
シルバーの外壁に黒い窓枠と腰壁。
モノクロの対比が美しいシンプルモダンな店舗を、ゴツゴツとした岩が転がる庭が取り囲んでいます。
どっしりしていながら、威圧感を感じさせないのが印象的です。
おおきな三角屋根は古代から人類が自然と共存するために、昔から採用されてきた馴染み深いカタチ。
海に開かれたガラス張りの窓からは、四角く切り取られた情景がゆっくり移り変わります。
石畳の先には、金属的な壁面に落ち着いた黒でロゴサインが描かれ、より近代的な雰囲気に。
スケールアップされた珈琲豆は、これから広がる世界を予感させるようにお客さんを迎えます。
いざ、豊穣なる時間旅行へ。
珈琲スタンドに入店すると、目に飛び込んでくるのは窓から望む父母ヶ浜。
のびやかに広がる水平線が気持ちの良い開放感を与えてくれます。
重厚な色が基調な室内は、外観と打って変わってムーディに。
窓の外の絶景と相まって隠れ家のような居心地の良さがあります。
窓のカウンターには、コーヒーカップ片手に来店者が思い思いの時間を過ごしています。
コーヒーは、私たちのもとに届くまで、途方も無い工程と時間が積み重なっているものです。
実り、選別され、ようやく辿り着く「焙煎」という工程。ひと飲みに凝縮された「時間」。
そこからコンセプトを「豊穣なる時間旅行」と位置付け、「焙煎」「時間」を感じさせる素材をセレクトし、建物をデザインしています。
床や階段に敷き詰めたレンガタイルは、土を焼成したもの。
同じ豆でも「焙煎」によって味わいが変化するように、焼成によって素材ひとつひとつの表情もまた違うのが魅力的です。
外壁・内壁には、表面を焦がすことで耐久性を高める焼杉が並び、光が当たるとつややかな光沢を魅せます。
「時間」の素材選びとして手がかりのひとつとなったのは光。
光そのものが何万年もの時間旅行をして宇宙から私たちに届いています。
そこでカウンターの足元や天板、階段の側板に、光を反射する金属を採用。
変わりゆく天候の移ろいをゆっくりと映し出してくれます。
海の向こうへ出航中。
室内のあちこちには小物たちが賑やかに並んでいます。
試験管や三角フラスコなどの研究道具、海に流すボトルメールのような瓶に詰まった豆たちやマリンランプ。
研究所のようでもありながら、どこか船舶をイメージさせます。
計画を進めてゆく中で「三豊産コーヒーを海の向こうの世界に届けたい」と語ってくれたオーナーさん。
店舗のネーミングも、コーヒーをすすると生じるズズズっという音が世界共通であることに注目しています。
水平線の先へ、出航準備は万全です。
豆豆豆の旅路はつづく...
コーヒースタンドの二階は事業者向けの話し合い部屋。
空間も低まった厳かな空間は、まさに秘密の特等席です。
隣のもうひとつの棟は、焙煎施設。
海側の棟と同じ二階建ての高さでありながら、吹き抜けになった高天井は体育館のように広々。
ここでさまざまな生成方法でつくった生豆を焙煎します。
同じ豆でも焙煎状態を微妙に調節することで、生まれる味わいの幅は無限大。
どこまでも可能性を秘めた研究所、豆豆豆。
父母ヶ浜から世界に向かって航跡は続きます。
OUTLINE
PJ title | 海辺の珈琲研究所 豆豆豆 |
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Place | 香川県三豊市 |
Building type | 店舗|木造二階建|延床面積216.42㎡ |
Complete | 2023.04 |
Director | 平宅 正人 |
Designer | 平宅 正人 入谷 洋平 |
Construction | 田中建設 |
Photo | 合同会社Fizm(藤岡 優) |