畑のなかのエレガンス ブンカノーカ
畑のなかのエレガンス
ここは設計者(筆者)である平宅の自邸です。僕たち家族の住まいは、僕が建築設計、殊にリノベーションや文化財修理に携わっている経緯もあり、当初から中古物件のリノベーションを前提にしていました。東京在住中に築70年を超えて立つこの農家屋に出逢い、購入しました。決め手は敷地も建物もゆったりと広く、前の家主が7年前に屋根瓦を全面葺き替えしていて、風呂が別棟だったこともあり床下や天井裏をみる限り目立った傷みは少なくドシッと構えている姿に安心感と親しみが持てたからです。
購入後しばらくして僕ら家族は東京からUターンし、関・入谷と一緒にしわく堂を立ち上げました。
移住したものの起業したこともあって当初は住宅ローンが組めず、開業から1年を経て、ようやくリノベーションすることができました。
私たち夫婦と小さな息子が過ごす暮らしの場は、農家屋らしい構造を最大限生かした伸びやかな生活の場(舞台)と、自ら丁寧に暮らしを作り上げていくための上品さ(エレガンス)もった場所にしたいとイメージしていました。
ですから細かなプランニングの前に、まずは構造躯体や屋根の架けかたを注意深く確認することからスタートして、もとの建物の形に合わせてこれ以上ないくらいプランはすんなり決まりました。
もともと建物が大きいこともあって、リビング空間はキッチンとあわせて35畳にもなりましたが、窓もすべて大きなサッシに新しく入れ替えてとても気持ちがいい空間になりました。
農家らしい丸太梁が見えるリビングは、一番高いところで天井高さは6m超にもなります。
朝が来て徐々にリビング全体が太陽の光で満たされる時間帯がとても好きです。
床のフローリングは梯子状に並べる朝鮮張で、岡山県西粟倉村の桧を選びました。家では裸足で過ごすので冬でもヒンヤリしないでとても足触りがいいです。
薪ストーブやヨークシャテリアのデンくんハウスがある窓際は、手入れしやすいテラゾー柄のセラミックタイルにしています。
引越しに合わせてデンくんのハウスも木製ドッグゲージに新調。
花浅葱色(はなあさぎ色)で吹き付けたアクセントウォールは、下地のサイズに縦桟を割り付けてひび割れしにくいようにして、そのほかの壁は白のペイントと塗装したラワン合板を張りました。
照明器具は、天井が高いこともあって、インテリア雑貨のような感覚でペンダント照明を中心に選びました。
なんだか、国籍不明感漂う素敵な空間になって気に入っています。
この家のキッチンやダイニングテーブル、洗面台などはホワイトアッシュという無垢材を使ってオリジナルでデザインして造作しました。
キッチンのワークトップは上品なマーブル柄の人工大理石にしています。壁にはニッタイの六角形釉薬タイルを貼って、目地がはっきりしすぎないようにライトベージュ色の防汚目地材を使いました。
トイレは気分を変えてモリス柄のボタニカルな壁紙をアクセントにしています。
壁に埋め込んだミラーキャビネットも造作で、少し大きめの洗面ボウルを設けました。
浴室はバスタブを置いた在来浴室にしました。憧れてオーバーヘッドシャワーを付けましたが、正直たまにしか使っていません。
洗面所は造作のダブルボウルの洗面台とミラーキャビネットを置いて、床は織物調の長尺シートに。足がヒンヤリしないのでおすすめです。
洗面所と浴室を仕切るガラス戸は、購入前からこちらの家で使われていたものを再利用。この家のほぼ全ての建具がもとあったものをリメイクしています。
寝室とリビングの間にある書斎空間は、グレー色のふかふかのロールカーペーットを敷いて、大工さんに本棚を造作してもらいました。
ゴロゴロとよく子どもと絵本を読んだりしています。本棚の奥はウォークインクローゼット。
寝室はもともと納屋だったところで、梁や天井は綺麗に洗浄しただけでそのまま見せています。
天井は低めですが気になりません。寝室の照明は、寝ていて眩しいのが嫌なのでベットの足元側だけにしていますが、寝る前の絵本だって十分読めます。
文化農家
香川県は、地域柄か中古住宅の流通やリサイクルがあまり進んでいません。
新しいもの好きな県民性なのか新築信仰が根強いこともありますが、特に我が家のようないわゆる「やつお」と呼ばれる伝統的な農家屋の流通や再生は稀です。
理由は簡単、多くの方がリノベーション後のイメージが湧かないのです。
だからこそ僕は、ここではリノベーションで今の時代でも心地よいと思ってもらえる場所をつくることで、少しでも中古住宅の流通や再生に対するポジティブな印象を届けたいと考えています。
和風の住まいに洋風のインテリアや生活様式が持ち込まれて普及し、かつて「文化住宅」と呼ばれ流通したように、
今度は私たちの現代の感覚やライフスタイルでリノベーションした農家屋を「ブンカノーカ」と呼んで、流通するといいなと思っています。
この住まいも、やや傾いている部分はすべて建て起こしていますし、
耐震、断熱、気密も新築と同じクラスの仕様となるように改修しています。
想像さえできれば、きっとポジティブに迎えてもらえるはず。
住宅取得時のラインナップに、新築や築浅物件のリフォーム以外の選択肢として「ブンカノーカ」があげられるように、生活を実践しながら、取り組んで行きたいなと考えています。
OUTLINE
PJ title | ブンカノーカ |
---|---|
Place | 香川県観音寺市 |
Building type | 個人住宅 | 木造2階建 | 165㎡ |
Complete | 2020.6 |
Director | 平宅 正人 |
Designer | 平宅 正人 |
Construction | 山口工務店 |
Photo | 藤岡 優 |