重要文化財を活用して残す国指定重要文化財 林家住宅 「Awakura」
美作地方の上層農家の構えを示す、江戸後期の住宅
国指定重要文化財 林家住宅は、岡山県の北東端、兵庫県と鳥取県と県境を接する美作市東粟倉の中谷集落に所在しています。
あたりは岡山県下最高峰の後山の南側の裾野に広がる段々畑が広がる美しい田園地帯である一方、年によっては雪が積もり、路面は凍結し、家々の軒先にはつららが下がる厳しい冬を過ごす場所です。
山深い林家の先祖は武士であり、江戸時代、近世初期にこの地に土着したと伝えられていて、この集落の庄屋を勤めて幕末に至りました。
石積みで築かれた緩い傾斜がついた敷地の中に、主屋を中心に、長屋門、米倉、衣装倉の4棟の重要文化財のほか宮、地仏堂が建っていて、「この地方の上層家の構えを示していること」「当初の平面(間取り)を示す板絵図が残っていて、天明六年(1786)に建設されたことが明らかであること」などから岡山県下の民家を知る上で重要な遺例であるとして重要文化財に指定されています。
本PJは、弊社取締役である平宅正人が理事を務める(一社)創造遺産機構が手がけ、しわく堂はパートナーカンパニーとして保存活用計画策定における調査、「保存修理事業」「防災事業」「環境保全事業」の設計および監理に関わっています。
文化財建造物が抱える課題
国が指定する重要文化財建造物の数は令和5年時点で2,500件を超えるなか、
実はそれら建物の所有者のほとんどが、宗教法人や個人といった民間であり、その維持保存に関する体制は極めて脆弱です。
維持管理については、過疎化が進む地方の村落などでは相続で所有者が変わったタイミングで、現地での自主的な管理が困難となり、また修理や修繕については大きな補助金が出るとしても自己負担は一定程度必要で、相続した方達が自身が利用していない施設に多大な私財を投入して維持管理することは極めて難しいため、手付かずとなり建物が傷んでゆく状態になっています。
当然、地方自治体の予算も潤沢ではないため、早々簡単に修理の計画を上げて着手できるわけでもありません。
3つの方法で民間所有の指定文化財を使い継ぐ
本PJにおいては、地域の暮らしの様相を示していて、未来に残すべき貴重な文化財を活用しながら保存していくことを前提に
「多大な所有者負担を軽減する」「ミニマムインターベーション」「収益化」の3つの手法にチャレンジしています。
まずは「多大な所有者負担を軽減する」ために、活用のために必要な資金は、創造遺産機構がリスクを背負って調達することで、所有者の負担をなくしています。
そして「最小限の介入」とも訳される「ミニマム・インターベーション」ですが、使い続けながら定期的な修繕を適切に施していくことで多大な費用と期間を要する解体修理に至るスパンを伸長していく計画をとっています。
また、一般公開に加えて年間で宿泊等の利用で「収益化」を行うことで、調達資金の返済をしつつ「ミニマム・インターベーション」のための費用を積み立てていく手法をとっています。
また宿泊事業は、粟倉エリアで暮らす方々や地域事業者と協力したサービスを開発しており、地域にも観光拠点として資金が還元される仕組みを整えていきます。
ミニマム・インターベーション
公開活用と収益化を両立する
OUTLINE
PJ title | 国指定重要文化財 林家住宅 「Awakura」 |
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Place | 岡山県美作市東粟倉 |
Building type | 木造 |
Complete | 2022.08 |
Director | (一社)創造遺産機構 |
Designer | (一社)創造遺産機構 |
Construction | 神田組・松本建設・高元組・勝栄建設 |
Photo | 西大寺フォト |