生活への負担を抑えつつ、地震に備える暮らしながらできる耐震補強
南海トラフの巨大地震に備える
地震大国ニッポン。
近年頻発している大地震によって倒壊した住宅の被災状況は、私たちの記憶に新しく、震災の恐ろしさを伝えています。四国地方では、南海トラフを震源とする東海・東南海・南海の三連続巨大地震が今後10年以内に発生する確率が高いとの政府の発表もあり、住まいの地震対策への関心は日々高まっています。
しかし耐震への関心が一方で、耐震対策については補強工事が生活へかける負担の大きさがネックとなっています。
生活への影響が最も大きいのは、「工事中の、寝床など生活の場所の確保」で、施工計画によっては工事が完成するまでの間、引越しを余儀なくされる場合があります。次に「給湯設備やキッチンなどの設備の使用制限」で数日お湯が使えず、お風呂に入れないといった状況が発生します。
こういった、耐震補強工事にまつわる生活への負担を如何に軽減しながら耐震補強を実現するか、今回の大きなテーマでした。
自慢の瓦屋根。重たいけど、残したい
香川県三豊市。今回耐震補強を実施したのは、重層的に連なる瓦屋根と、独創的なモチーフの鬼瓦が特徴的な、「立派」という言葉が似つかわしい堂々たる住まい。耐震補強を希望された十鳥さんは、自身がこだわって新築をした愛着ある住まいへの思い入れもひとしおです。
耐震対策の方法としては、大きく2つ。「地震の力に対抗できる強い壁を増やすこと」と「建物にかかる地震の力を小さくするために建物を軽量化すること」。
「軽量化」というのは、重たい瓦屋根をガルバリウムなどの軽い屋根に葺きかえる工事などがあります。生活への負担を減らすためには、屋根を軽くして補強しなければならない耐震壁の量を減らすことが有効ですが、今回は愛着のある屋根を残すことを決断しました。
引っ越したくないけど、補強はしたい
ご夫婦の要望は、寝室やリフォーム済みのリビングなど普段使う部屋の生活動線を確保して、暮らしながら耐震補強したいというもの。そこで、外壁からの工事を試みました。1階は外壁側から工事することで、室内は寝室やリビングに触れることなく、耐震の基準値を満たすことができました。
一方、2階の外壁を補強する場合は立派な二重庇の屋根を解体する必要があるため、外壁から施工はできません。普段使わない2階は内壁を工事することで自慢の瓦屋根の形をそのまま残すよう計画。耐震補強は内壁からも外壁からも補強することができます。工事箇所や施工順序を工夫することで暮らしながら耐震補強することもできるのです。
コストを抑えて、負荷を減らす
耐震の壁補強において、従来の工法では、既存の壁を壊したり天井や床を解体する必要がありました。この方法では、当然床や天井の解体修復費用がかかります。そこで2階は天井や床を壊さない低コスト工法を採用しました。必要な箇所を必要な分だけ解体し補強することで、コストだけでなく、工期も短縮し、効率よく地震の負荷を減らすことができます。
さらに2階では一部壁に触れない補強をしました。壁を補強するためには、耐力壁を入れることと同時に柱の上下を梁や桁に金物で固定することが求められます。金物だけでも耐震性能は向上します。2階の柱は、上は屋根裏から、下は外壁や1階の屋根裏から固定できたため壁に触れることなく耐震補強ができました。
暮らしながら補強するために
重たいけど、残したい瓦屋根。引っ越したくないけど、補強はしたい。暮らしながらできる耐震補強は、日常的に使う寝室やリビングを避け、耐震補強ができます。しかし、使わない部屋は物置になっていることも多く、荷物の移動や埃対策の養生は欠かせません。生活動線だけでなく、工事箇所までの大工の通り道、資材の搬入導線を確保する事前の準備も大切です。
OUTLINE
PJ title | 暮らしながらできる耐震補強 |
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Place | 香川県三豊市 |
Building type | 個人邸|木造二階建|182.40m2 |
Complete | 2024.8 |
Director | 平宅 正人 |
Designer | 平宅 正人、金子大海 |
Construction | しわく堂 |
Photo | しわく堂 |